◆ X’mas ◆    作・真紀



「さて、次のニュースです。今日高松市・・・・・・において日本一大きなツリーの点灯式が行われました。
なお、ツリーの点灯は24日深夜まで行われる予定です・・・」

僕が何の気なしに見ていたニュース番組で、そんな事を言っていたのはいつ頃だろうか?

冬を目前にして季節の変わり目は、普通の人でも体調を崩し易い時期である。

病弱なあの子はやはり体調を崩し、入院とはいかないまでも時折病院に通っていると風の噂に聞いていた・・・

日本は世界地図の中で見れば本当に狭い島国だが、実際にこうして日本に住んでいると狭い狭いとは

言われつつも、やはり距離と言うものを考えずにはいられないときが何度もある。

そのニュースを聞いたとき、僕はやはり距離の遠さを感じていた。


「あの・・・もし、予定が空いていたら・・・」

何度も繰り返して聞いた留守電話の声・・・その声は何とも弱弱しさを感じさせるものだった。

僕に翼があればいつでも君の元に飛んでいけたのに・・・

そんな馬鹿げた空想的な考えを真剣に考えてしまうほど、僕の心は何ともいえない無力感が支配していた。

クリスマスのシーズンと言えば掻き入れ時である僕のバイト先も、猫の手も借りたいほどの忙しさに

なるのは目に見えていた・・・ましてやバイトである僕には、そんな時期に休みをくれなどとは決して

言うことは出来やしない・・・

「君、23日は遅番で良いかな? その代わり24日は午後から休んでも良いから」

思いがけない店長の言葉だった。

僕はもちろんそんなありがたい申し出を断るはずもなく、もちろんOKした。

「東京地方の今日の天気は雨のち雪・・・場所によっては積もる可能性もありますので交通機関に影響が
出ることも考えられます・・・」

(東京にも雪が降ることなんてあるんだ・・・)

23日の朝のニュースを見ながら僕は、朝ご飯をつつきながら単純に物珍しそうな感想を思うだけであった。


僕が生まれたからすでに20年近くが経とうとしている・・・でも雪を見たことは数回しかない。

それほど雪とは縁遠いい生活をしていた僕にとっては、雪は単なる珍しいもの以外の何者でもなかった。

「今日は遅番だから晩ご飯はいらないから・・・」

僕は親にそういい残すと定期試験を受けるために、大学までの道のりを急いだ。


「やあ、無理を言ってすまないね・・・」

「いえ、気にしていませんから・・・」

そんな社交辞令のようなやり取りがあったあと、僕ははじめての遅番のバイトに勤しむのであった。

遅番とは要は夜勤のことで、前日の夕方近くから翌日のお昼近くまでのシフトのことである。

窓の外は天気予報の通り白い物が舞っていた・・・

「じゃあ、お先に上がります」

「お疲れ様」

バイトも終わり、家に帰ると僕は荷物をいくらかまとめて旅支度をしていた。

遅番&雪のダブルパンチによって、いくらか丈夫な僕の体も少しばかり休みを欲していたが、気力だけが

今の僕を動かしていた。

あいにく雪は積もるほどではなく降ったそばから溶けていたが、それでもやはり外はかなりの寒さだ。


「のぞみ・・・号 博多行き・・・」

僕は東京駅のホームで新幹線に乗っていた。

僕は疲れを少しでも癒そうと車中ではほとんど寝てばかりだった。そして、夢を少しだけ見たような気がする・・・


「やはり東京の大学には行けそうにありません・・・」

ある程度覚悟はしていたが、実際に真実の言葉となって聞かされるとやはり無念さを感じずにはいられなかった。

「僕がそっちに時々行くよ・・・それで良いよね?」

「・・・でも・・・」

「僕がそうしたいんだ・・・毎日が無理なら時々でも君の笑顔を見ていたいから・・・」


僕はちょっとばかり昔の夢から目覚めるとそっと窓から外を見た。そこには夜の暗闇の中にもぽつんぽつんと

光が見えた・・・

暗闇を照らすロウソクの炎のように・・・そして、人の暖かさを表しているかのように・・・

ちょうどそんなことを僕が考えているときだった。

「まもなく岡山・・・」

(やっとここまで来たんだ、そしてもうじき会えるからね・・・)

僕はそう心に言い聞かせると荷物を網棚から下ろし始めた。


夜の8時はすでに回っただろうか?

僕はやっとの思いで高松の地に降り立っていた。

さすがにタクシーに乗るほどのお金もなく、かと言って最終のバスはすでに終わっていた。僕は仕方なく

歩き始めた・・・。

その時、僕のポケットの中の物が振動をはじめた。僕はポケットから携帯電話を取り出した・・・

そして通話ボタンを押した。


トントン・・・

極力控えめに叩いたノックの音が廊下に響く。

「開いてますよ・・・」

同じくらい控えめな声が室内から聞こえる。

「本当に来てくれたんですね・・・アルバイトが忙しいと聞いていたから・・・無理かと思ってました・・・」

「偶然今日は午後からフリーになったんだ・・・真奈美と一緒にツリーが見たくてね・・・でも、病院からじゃ
見れないか・・・」

意味ありげな笑いを真奈美が見せる。

「残念でした。この病室からだときれいに見えるんですよ」

そう真奈美は言うとカーテンが掛けられたひとつの窓を示した。

「開けてもらえます?」

僕は真奈美に言われるままにそのカーテンを開けた・・・


「はは・・・まさかこういう事だったとはね・・・」

「だから言ったでしょ、この病室からだとよく見えるって・・・」

僕はその窓際で真奈美と肩を寄せ合いながら窓から見える光景を見ていた。

それは、一つの山丸々に電飾を飾りつけた本当に巨大なツリーだった・・・いったいどれくらいの電飾が

使われているのだろうか?

山全体がキラキラと光って何ともいえない幻想的な光景だった。

「でも、あれって・・・」

「正解です・・・私の家がある山です」

山をツリーに仕立てるという発想も関心したが、その山が杉原家の所有地だと聞きまたもびっくりした僕を

横目で見ながら、真奈美はさぞ面白そうな顔をしていた。


点灯時間も終わり再び真っ黒になった山をバックにしながら、僕と真奈美は夜遅くまで話をしていた・・・

「寒くないですか?」

「寒くないと言えば嘘になるかな・・・」

僕はなるべく真奈美に心配を掛けまいとそう言った。

だが、昨日の遅番に続き高松市内を歩いてこの病院にやって来たため僕の体調はすこぶる悪かった・・・

自分自身でもわかるほど体は熱を持っていたし、何ともけだるい気分になっていた・・・

僕の我慢も限界が来たようだった。ある瞬間に僕の意識は急になくなってしまった・・・

「きゃ、大丈夫ですか?」

僕の消え行く意識の中で最後に聞こえた声だった・・・


チュンチュン・・・

窓の外から聞こえてくる鳥の鳴き声で、僕はようやく目を覚ました。ただ、僕の体には布団が掛けられていた・・・

そして、同じ布団に真奈美も寝ていたのだった。

僕のこの状況をどう理解して良いのかわからなかったが

この心地よい暖かさの中で真奈美の病弱な体でもこんなに暖かいんだ・・・

僕は人の息吹の感じながら再び深い眠りにつく・・・


「そろそろ起きてください」

真奈美の声が僕を呼び覚ます・・・

「よく眠れましたか?」

やはり僕の隣で真奈美が心配そうな顔つきをしながらたずねる。

「うん・・・よく寝れたよ・・・」

「急に倒れるから心配しました・・・」

「ごめん・・・ちょっと無理しすぎたかな・・・」

何ともほのぼのとした会話を同じベットの同じ布団の中で僕たちは交わしていた・・・


「さて、そろそろ帰らないと・・・」

「もう帰るんですか?」

真奈美が名残惜しそうに聞き返してくる。

「うん、まだバイトがあるし・・・大丈夫、また近いうちに会えるさ・・・」

「そうですね、私ばっかりがわがままを言っちゃダメですよね・・・」

真奈美は自分に言い聞かせるようにそういうとさらに続けた。

「じゃ、行ってらっしゃい」

「うん、行ってくるよ・・・また帰ってくるから・・・」

今にも泣き出しそうな笑顔の真奈美の、精一杯の励ましの言葉に僕も応える。

そして、病室から出て行こうとしたときに僕はあることを思いついた・・・

「そうだ、真奈美にサンタさんからクリスマスプレゼントだよ・・・一日遅れだけど・・・」

僕は真奈美の肩を抱くとそっとキスをした・・・


fin


 稀代のマナミスタである【PiaCarrot.Net】の管理人の真紀さんより、お年玉代りにラブラブSSを
頂きました。これが人気争いのポール・ポジションを今だ堅持する、”クイーン・オブ・センチ”の実力か!? 
恐るべし真奈美パワー!!
 真紀さん、本当にありがとうございます!!

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